ギア比を変えたらどうなる?ピストの「チェーンの長さ(コマ数)」の正しい計算方法と切り方
ピストバイクの走りを劇的に変えるカスタマイズといえば、「ギア比の変更(チェーンリングやコグの歯数の変更)」です。ストリート最強のギア比は「2.8前後」?スキッドパッチから導く最適解の記事を読んで、坂道を楽に登れるように歯数の大きなコグを購入した、という方も多いでしょう。
しかし、いざ新しいコグを後輪に取り付けてチェーンを張ろうとすると、「あれ?チェーンが届かない!」あるいは「チェーンが長すぎて後輪を一番後ろに引っ張ってもダルンダルンに余ってしまう!」というトラブルが頻発します。歯の数(円の大きさ)が変われば、当然それに巻き付くチェーンの必要な長さも変わるからです。
変速機(ディレイラー)が付いているロードバイクであれば、機械がバネの力でチェーンの余りを自動的に吸収してくれますが、ピストバイクにはその機構がありません。自分でチェーンの長さを完璧な長さに「切る(コマ数を調整する)」必要があります。本記事では、ギア比を変えた際に必須となる「チェーンコマ数の計算方法」と、初心者でも失敗しない正しいチェーンの切り方について徹底解説します。
そもそもチェーンの「長さ」とは何か?
計算方法を知る前に、自転車のチェーンがどのような構造で長さを変えているのか、その基本単位を理解しておく必要があります。
長さの単位は「リンク(コマ)」で数える
- 外側のプレート(アウターリンク)と内側のプレート(インナーリンク)が交互に繋がっている
- この1つの輪っかのセットを「1リンク」または「1コマ」と呼ぶ
- チェーンを切る(繋ぐ)時は、必ず「アウターとインナーがペアになる偶数単位」でしか長さの調整ができない
チェーンの長さは「センチメートル」ではなく、「100リンク」や「102リンク」といった「コマ数(リンク数)」で数えます。市販されている新品のピスト用チェーン(例えば和泉チエンのVチェーンなど)は、大抵「106リンク」や「116リンク」という長めの状態で売られており、そこから自分の自転車に合わせて不要なコマを専用工具で切り落として使います。
ここで最も重要なポイントは、チェーンの長さは「2リンク(2コマ)単位」でしか増減できないということです。「あと1ミリだけ短くしたい」と思っても、チェーンの構造上、インナーとアウターのペアを保つためには最低でも2コマ分(約2.5センチ)を一気に切るしかありません。この「2コマの壁」があるため、チェーンの長さ調整は非常にシビアな作業となります。
必要なチェーンの長さ(コマ数)を導き出す計算式
ギア比を変えた際に、何コマのチェーンが必要になるのか。実はこれを導き出すための、世界共通の数学的な計算式(計算ツール)が存在します。
「厳密な計算式」と「リアセンター」の重要性
必要なリンク数 = (フロント歯数/2) + (リア歯数/2) + (リアセンターの長さ(mm) ÷ 6.35) + 1
この数式に当てはめることで、理論上必要なチェーンのリンク数が割り出せます。フロント歯数(チェーンリング)とリア歯数(コグ)は購入したパーツの数字を入れるだけですが、ここで重要になるのが「リアセンター」の長さです。
リアセンターとは、「ペダルの回転軸(BBの中心)」から「後輪の回転軸(リアハブの中心)」までの直線の距離(ミリメートル)のことです。ピストバイクの後輪は、チェーンをピンと張るためにエンド部分(車輪をはめる溝)を前後にスライドさせることができます。このエンドの溝の「一番奥(前)」から「一番手前(後ろ)」までのどの位置に車輪を固定したいかによって、リアセンターの長さは数センチ変化します。計算機を使う際は、メジャーを使って現在の自転車のリアセンター(だいたい390mm〜410mmの間)を正確に測って入力する必要があります。
便利なWEB上の「チェーン長計算機」を活用する
自分で電卓を叩くのは計算ミスが起こりやすいため、「ピスト チェーン長 計算」などで検索し、有志が公開しているWEB上の自動計算機を利用するのが最も確実で安全です。フロントの歯数(例:48T)、リアの歯数(例:17T)、そして希望するリアセンター長(例:395mm)を入力すると、「100リンク」といった必要なチェーンの長さが瞬時に弾き出されます。
ここで計算結果が「99リンク」のような奇数で出た場合は要注意です。前述の通りチェーンは偶数(2コマ単位)でしか繋げないため、98リンクに切り詰めて後輪を前方にスライド(リアセンターを短く)させるか、100リンクにして後輪を後方にスライド(リアセンターを長く)させるかの2択を迫られます。この時、フレームのエンドの溝の長さに余裕がなければタイヤがフレームに接触してしまうため、ピストバイクが「疲れる」と言われる本当の理由と、楽に走るためのギア比設定も参考にしながら、「手持ちのフレームの許容範囲に収まるギア比」を選ぶという逆算の視点も必要になります。
失敗しない!チェーンの切り方と調整の極意
必要なコマ数が分かったら、いよいよ専用工具(チェーンカッター)を使ってチェーンを切る作業に入ります。ここでのミスはチェーン一本を丸ごとパーにする(使い物にならなくなる)ため、慎重に行う必要があります。
「現物合わせ」が最強の確認方法
| 作業手順 | ポイント | 失敗のリスク |
|---|---|---|
| チェーンを前後ギアに掛ける | 後輪はエンド溝の「一番前」より少し後ろに仮止め | ほぼゼロ |
| 切る場所をマーキングする | インナーとアウターの接続面が合う位置を探す | ここを間違えると短くなりすぎてアウト |
| チェーンカッターでピンを抜く | 真っ直ぐに工具のネジを押し込む | 斜めに入ると工具が壊れる |
計算機で「100リンク」と出たからといって、机の上でいきなり100コマ数えてバチンと切るのはプロでも避ける危険な行為です。必ず自転車のギアにチェーンを実際に掛け回して、自分の目で長さを確認する「現物合わせ」を行ってください。
後輪を、エンド溝の前方から3分の1くらいの位置に仮止めします。そして新しいチェーンをフロントとリアのギアにぐるっと引っ掛け、両端を引っ張って合わせます。チェーンがピンと張り、かつ「インナーリンク」と「アウターリンク」がピタリと噛み合う場所(偶数になる場所)を探し、そこに油性マジックで目印を書きます。絶対に「短すぎる状態(届かない状態)」で切らないように、「迷ったら1コマ(2リンク分)長く切る」のが鉄則です。長ければ後からもう1コマ切ることはできますが、短く切ってしまったチェーンを再び繋ぐと、その部分の強度が著しく落ちて走行中に切れる原因(大事故)に繋がります。
ミッシングリンクの活用とテンション調整
チェーンを切った後、専用のピン(アンプルピン)を押し込んで繋ぐのは初心者には難易度が高いため、「ミッシングリンク(クリップ式ジョイント)」の使用を強くおすすめします。
ミッシングリンクとは、手やラジオペンチで簡単にカチッとはめ込んでチェーンを繋ぐことができる便利なパーツです。シングルスピードのチェーン切れ対策!出先で役立つミッシングリンク活用術の記事でも紹介されている通り、これを使えばチェーンの脱着が劇的に簡単になり、将来のメンテナンスやチェーン洗浄が非常に楽になります(和泉チエンのVチェーンなどのピスト用チェーンには、最初からクリップ式のジョイントが付属していることが多いです)。
チェーンを繋いだら、最後に後輪を後ろに引っ張って「チェーンテンション(張り具合)」を調整します。【初心者OK】ピストバイクのチェーンテンション調整方法と適切な張り具合を参考に、指でチェーンを上下に押した時に「1〜2センチ程度のたわみ」ができる絶妙な張りに調整して、ハブナットを左右均等に強く締め付ければ作業は完了です。
まとめ
ギア比を変えるということは、単に歯車を付け替えるだけでなく、それに伴う「チェーンの長さ(コマ数)」を正確に再計算し、調整するというシビアな作業がセットになります。変速機のないピストバイクにおいて、チェーンの長さはフレーム(リアセンター)の寸法とミリ単位で噛み合わなければならない非常にデリケートな要素です。
チェーンを新調する際は、必ずWEB上のチェーン長計算機を利用して理論上のリンク数を割り出し、その上で実車を使って「現物合わせ」を行い、絶対に短く切りすぎないように細心の注意を払ってください。
「2コマ単位でしか長さを変えられない」という自転車の構造上の制約を理解し、チェーンの切り方と適切なテンション(張り具合)の出し方をマスターできれば、あなたはピストバイクの整備において「一人前のメカニック」への大きな階段を登ったことになります。新しいギア比と美しい新品のチェーンで、最高にダイレクトなペダリングの快感を味わってください。
