ピストバイクのカスタムにおいて、最も走りの質と見た目の迫力を左右する「心臓部」とも言えるパーツが、クランクとチェーンリング(フロントの大きな歯車)です。

純正の重いクランクから、憧れのブランドのクランクへアップグレードしようと通販サイトを見ていると、必ずと言っていいほど「PCD144」や「PCD130」といった謎の規格(数字)にぶつかります。この数字の意味を正しく理解せずに購入してしまうと、「買ったチェーンリングがクランクに取り付けられない!」という悲惨な失敗を招くことになります。

実は、この「PCD」の違いは単なる寸法の違いにとどまらず、そのクランクが「トラック競技用(本気仕様)」なのか、それとも「街乗り・ロードバイクからの流用」なのかを決定づける極めて重要な要素です。本記事では、初心者には難解なPCDの仕組みと、144と130の決定的な違い、そしてあなたのプレイスタイルに合った選び方を徹底解説します。

そもそも「PCD(BCD)」とは何の数字なのか?

クランクやチェーンリングの商品名に必ず付いてくる「PCD(またはBCD)」という言葉。まずはこの暗号のような単位の正体を解き明かしましょう。

チェーンリングを固定する「ネジ穴の円の直径」

PCD(Pitch Circle Diameter)の定義
  • クランクアームとチェーンリングを固定する5つ(または4つ)のボルト穴を結んでできる「仮想の円の直径」のこと。
  • 単位はミリメートル(mm)。
  • 世界的には「BCD(Bolt Circle Diameter)」と呼ばれることが多いが意味は全く同じ。

簡単に言えば、チェーンリングを取り付けるための「ボルトの広がり具合(間隔)」を表す数値です。このボルトの配置円の直径が144mmであれば「PCD144」、130mmであれば「PCD130」と呼ばれます。

クランク側がPCD144の穴の配置になっているなら、そこに取り付けるチェーンリングも絶対にPCD144用のものでなければ、ボルトの穴の位置が合わず取り付けることができません。憧れの「SUGINO 75」クランクを徹底インプレ!なぜ世界中のライダーから愛されるのかの記事にあるSUGINO 75などの名機はすべてPCD144で作られており、クランクを買う際は必ずこの規格を確認することがカスタムの第一歩となります。

なぜ複数のPCD規格が存在するのか?

「全部同じ寸法に統一してくれればいいのに」と思うかもしれませんが、PCDが分かれているのには、自転車の用途に応じた物理的な理由があります。

PCDの数値が大きい(ボルトの円が広い)ほど、チェーンリングの外周近くをガッチリと固定できるため、踏み込んだ時の「剛性(たわみにくさ)」が高くなります。プロのトラック競技選手がもがくような凄まじいパワーを受け止めるには、大きなPCDが必要だったのです。

一方で、PCDの数値が小さい(ボルトの円が狭い)と、剛性は少し落ちますが、その代わりに「歯数の少ない(直径の小さな)チェーンリング」を取り付けることができるようになります。ロードバイクのように坂道を登るための軽いギア(インナーリングなど)が必要な自転車は、小さなチェーンリングを取り付けるために、あえてPCDを小さく設計する必要がありました。この歴史的・用途的な背景が、現在のピストバイクにおけるPCDの違いに直結しています。

競技志向の「PCD144」 vs 街乗り派の「PCD130」

それでは、ピストバイクで現在主流となっている「PCD144」と「PCD130」の2つの規格について、それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。

ピストの絶対的スタンダード「PCD144」

PCD144の特徴メリットデメリット
用途・世界観純粋なトラックレーサー(競輪)特になし。ピストの王道。
剛性(硬さ)極めて高い。パワーロスがない。硬すぎて疲れやすい場合も
選べるチェーンリングSUGINO ZENやRotorなど最高峰が揃う44T以下の小さなギアが物理的に作れない

現在、世界中の本格的なピストバイクパーツの絶対的な世界標準規格となっているのが「PCD144」です。日本のNJS(競輪)規格もすべてPCD144で統一されており、Sugino 75、SRAM Omnium、Rotor、Miche Pistardなど、誰もが憧れる最高峰のトラッククランクは例外なくこの規格を採用しています。

PCD144の最大のメリットは、何と言っても「剛性の高さ」と「選べるチェーンリングの豊富さ」です。世界に一台の愛車に!フレームの塗り替えとカスタムペイントなどでお気に入りのフレームを作ったら、足回りには絶対にSUGINO ZEN(禅)やAARNの美しいチェーンリングを入れたいと思うはずです。これらの一流チェーンリングはすべてPCD144専用で作られているため、クランクをPCD144にしておけば、今後のカスタムの選択肢が無限に広がります。ピストらしい「スキッド」や「ダイレクトな加速感」を本気で楽しみたいなら、迷わずPCD144を選んでください。

ロードバイクからの流用で発展した「PCD130」

一方、完成車として売られている5万円〜8万円程度のピストバイク(エントリーモデル)の多くに標準装備されているのが「PCD130」のクランクです。

PCD130は、もともとロードバイクのクランク(シマノなど)で広く使われていた規格です。そのため、メーカー側が安価なロード用クランクの金型をそのまま流用してピスト用のシングルクランクを作ることができ、コストダウンに繋がるためエントリーモデルに多く採用されています。

PCD130のメリットは、ボルトの円が小さいため、「44T」や「42T」といった非常に歯数の少ない小さなチェーンリングを取り付けることができる点です(PCD144では、ボルトとチェーンが干渉するため44T以下は作れません)。そのため、ストリート最強のギア比は「2.8前後」?スキッドパッチから導く最適解で解説したような軽いギア比をさらに下回り、トリック用(ウィリーやバースピン)に極端に軽いギア(2.0など)を作りたいBMXテイストのライダーには重宝されます。しかし、Sugino ZENのような憧れのチェーンリングを取り付けることはできないため、将来的なカスタムの拡張性はPCD144に劣ります。

結論:これからクランクを買うならどちらを選ぶべきか

もしあなたが現在PCD130の純正クランクを使っていて、「もっとカッコいいクランクに変えたい」「走りを軽くしたい」と考えているのであれば、結論は非常にシンプルです。

迷わず「PCD144」のクランクセットに買い替えるべし

クランクをアップグレードするなら、多少値が張っても「PCD144規格」のトラッククランクセット(Sugino 75やMiche Pistard 2.0など)に丸ごと交換することを強くおすすめします。

現在のPCD130のクランクアームを残したまま、PCD130用のちょっと良いチェーンリングだけを買って交換しても、見た目の迫力や剛性アップの効果は限定的です。「いつかはあのカッコいいチェーンリングを入れたい」と思った時に、クランクのPCDが130のままでは永遠に夢は叶いません。

ペダリングが激変する!ピストバイクのクランク長「165mm」と「170mm」の選び方も考慮しながら、自分に合った長さのPCD144クランクを手に入れましょう。BB(ボトムブラケット)も一緒に交換することになりますが、その足回りの劇的な変化(剛性アップによる鋭い加速)に、きっと「もっと早く変えておけばよかった」と感動するはずです。

まとめ

クランクやチェーンリングに記載されている「PCD(BCD)」という数字は、単なるボルト穴の寸法ではなく、そのパーツが持つ血統(競技用か、街乗り・ロード流用か)を示す重要な指標です。

現在、ピストバイクのカスタムシーンにおいて最も熱く、最高品質のパーツが集中しているのは間違いなく「PCD144」の規格です。SUGINO ZENやaarnといった世界中のストリートライダーが憧れるチェーンリングは、すべてこのPCD144で設計されています。

もしあなたが初めてのクランク交換を検討しているなら、現在主流となっているPCD130の呪縛から抜け出し、本物のトラック競技基準であるPCD144のクランクセットを手に入れてください。チェーンリングを自由に選べる拡張性と、ペダルを踏み込んだ瞬間にダイレクトに車体が前に飛び出す圧倒的な剛性感は、あなたのピストライフを一段上のステージへと押し上げてくれるはずです。

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