ピスト用チェーンの選び方:厚歯(1/8)と薄歯(3/32)の違いと、おすすめブランド
ピストバイクの走行において、ライダーの脚力を後輪へ伝える唯一のパーツが「チェーン」です。変速機を持たないピストバイクのチェーンには、ロードバイクなどの多段変速用チェーンとは全く異なる、非常に強靭な専用のものが使われています。
しかし、いざ伸びたチェーンを新しいものに交換しようと自転車屋さんに買いに行くと、「厚歯(あつば)」と「薄歯(うすば)」という謎の規格を前にして、どちらを買えばいいのか分からずに立ち往生してしまう初心者が後を絶ちません。この規格を間違えると、最悪の場合は走行中にチェーンが外れて大事故に繋がります。
本記事では、ピストバイクのチェーンにおける「厚歯(1/8インチ)」と「薄歯(3/32インチ)」の規格の違いと見分け方、間違えた組み合わせで起こる危険性、そして交換のタイミングやストリートでおすすめのタフなチェーンブランドまでを徹底解説します。
ピストバイクのチェーン特有の「厚歯」と「薄歯」とは
ピストバイク(シングルスピード)のチェーンや歯車(チェーンリングとコグ)には、その「厚み(幅)」によって2つの異なる規格が存在します。まずは自分の自転車がどちらの規格で作られているかを知ることが、すべてのスタートになります。
強度重視で競輪にも使われる「厚歯(1/8インチ)」の規格
一つ目が、ピストバイクの王道であり、日本の競輪(NJS)などトラック競技でも標準的に採用されている「厚歯(あつば)」という規格です。チェーンの幅(内側のローラーの幅)が「1/8インチ(約3.18mm)」で作られています。
厚歯の最大の特徴は、その圧倒的な「強度と耐久性」です。分厚い金属プレートで作られているため、競輪選手のもがくような爆発的な脚力や、ストリートでの激しいスキッド(バックトルク)を繰り返しても、滅多なことでは切れたり伸びたりしません。ピストバイクのカスタムパーツ(コグやチェーンリング)として販売されている高級パーツの9割以上はこの「厚歯」で作られているため、本格的にピストに乗るなら最終的には厚歯で統一することになります。
軽量で完成車によく使われる「薄歯(3/32インチ)」の規格
もう一つが、「薄歯(うすば)」と呼ばれる規格です。チェーンの幅が「3/32インチ(約2.38mm)」で作られており、厚歯よりも少しだけ薄く、ロードバイクやクロスバイクの多段変速用チェーン(7〜8速用など)と近い規格になります。
薄歯のメリットは、金属が薄い分だけ「軽量であること」と、「摩擦抵抗が少なく回転が軽いこと」です。そのため、BMXの一部や、フジフェザー(FUJI FEATHER)などの市販されているエントリーグレードのピスト完成車では、コストダウンと軽量化の目的でこの薄歯のチェーンと歯車が最初から組み込まれていることがよくあります。
規格を間違えると起こる「チェーン落ち」と「異音」の危険性
チェーンを買い換える際、自分の自転車の歯車(チェーンリングとコグ)が厚歯なのか薄歯なのかを把握せずに適当に買ってしまうと、非常に危険なトラブルを引き起こします。
薄歯のチェーンリングに厚歯のチェーンを使うとどうなるか
「自分の自転車は完成車の薄歯だけど、頑丈な厚歯のチェーンを付けてみよう」と考える方がいます。薄い歯車に対して、幅の広い(太い)厚歯のチェーンを被せるため、物理的にはハマってペダルを回すことができます。
しかし、これは絶対に推奨されません。歯車に対してチェーンの幅が広すぎるため、走行中に左右にガタガタとチェーンが暴れ、「チャラチャラ」という不快な異音が鳴り続けます。さらに、スキッドや段差の衝撃でチェーンが横にズレやすく、走行中にチェーンが外れてペダルが空回りし、コントロールを失って大転倒する(チェーン落ち)リスクが極めて高くなります。
絶対にNG!厚歯のチェーンリングに薄歯のチェーンは入らない
最もやってはいけないのが、「自分の歯車が厚歯(NJSパーツなど)なのに、間違えて薄歯のチェーンを買ってきてしまう」パターンです。
これは物理的に不可能です。分厚い歯車に対して、幅の狭い(薄い)チェーンを押し込もうとしても、途中でつっかえてしまいチェーンのコマに歯車が入りません。無理やり押し込んでペダルを回すと、チェーンのプレートが変形してバツンと引きちぎれます。チェーンを購入する際は、必ず「現在の歯車(チェーンリングとコグ)の規格(厚歯か薄歯か)と完全に一致させること」が鉄則です。分からない場合は、自転車屋さんに乗っていき「これと同じ規格のチェーンをください」と頼むのが一番確実です。
チェーン交換のタイミング(寿命)と必要な工具
チェーンは消耗品です。「切れるまで使う」のではなく、適正なタイミングで交換することで、チェーンリングやコグといった高価な歯車パーツの寿命を延ばすことができます。
走行距離3000km、またはチェーンチェッカーで伸びを確認した時
ピストバイクのチェーンの寿命は、乗り方(スキッドの頻度など)にもよりますが、おおよそ「走行距離3000km〜5000km」と言われています。長期間乗っていると、金属が削れてチェーン全体が少しずつ長くなる「チェーンの伸び」という現象が発生します。
伸びたチェーンを使い続けると、歯車の噛み合わせが悪くなり、異音が鳴ったり歯車側を異常な速さで削り取ってしまいます。交換時期を見極めるには、数百円で買える「チェーンチェッカー」という工具を使うのが最も確実です。これをチェーンに被せ、工具がスコッとチェーンの間に落ち込んでしまったら、完全に寿命(伸び切っている)のサインなので、即座に新品に交換してください。
チェーンカッター(厚歯対応)を使った正しい切断と接続手順
バラ完の組み立て手順 の記事でも触れましたが、新品のチェーンを自分の自転車に取り付けるには、長すぎるチェーンを適切な長さに切断するための「チェーンカッター」という専用工具が必要です(ピスト用の厚歯に対応したカッターである必要があります)。
チェーンを切り、車体に取り付けて繋ぐ際、ピスト用のチェーンの多くは「クリップジョイント(コネクティングリンク)」という、手やマイナスドライバーでカチッとはめ込める便利な接続パーツが付属しています。このクリップの「開いている側」が、チェーンの進行方向の「後ろ側」を向くように取り付けるのが、走行中に外れないための重要なルールです。
ストリートから競技まで!ピストバイクにおすすめのチェーンブランド
厚歯のチェーンと一口に言っても、価格も性能も様々です。ここでは、世界中のピスト乗りから愛されている、絶対に間違いないおすすめのチェーンブランドを2つ紹介します。
圧倒的な耐久性とコスパを誇る「IZUMI(イズミ)」のスタンダードチェーン
日本のピスト乗りの間で最も使用率が高いのが、大阪に本社を置く和泉チエンの「IZUMI(イズミ)」ブランドのチェーンです。
中でも「IZUMI 410(スタンダードチェーン)」は、2,000円台という安さでありながら、ストリートでの過酷なスキッドにも耐え抜く圧倒的な頑丈さを誇ります。ブラック、シルバー、ゴールドなどカラーバリエーションも豊富で、カスタムの第一歩としても最適です。さらに上位モデルには、競輪選手の脚力を受け止めるNJS認定の「IZUMI-V(スーパータフネス)」という最高峰モデル(約7,000円)もあり、一生モノの駆動系を組みたいならこれ一択と言われるほどの名品です。
美しいカラーとタフさで人気を集める「HKK(ベルテックス)」と「KMC」
IZUMIと双璧をなす人気ブランドが、同じく日本の「HKK(ベルテックス)」です。こちらのNJS認定チェーン(ブルーやシルバーのパッケージ)は、IZUMIよりも少しだけ回転がしなやかで静かだと評するライダーが多く、最高峰の滑らかさを求めるトラックレーサーに愛用されています。
また、世界最大のチェーンメーカーである台湾の「KMC(ケーエムシー)」のシングルスピード用チェーン(Z1eHXなど)も、防錆加工が優れており、雨の日でもガンガン通勤で乗るストリートライダーから高い支持を得ています。
半コマチェーン(ハーフリンク)のメリットとデメリット
チェーンを探していると、魚のウロコのような不思議な形をした「半コマチェーン(ハーフリンクチェーン)」というものを見かけることがあります。これはBMXのカルチャーから来た特殊なチェーンです。
絶妙なチェーンテンションとチェーンラインを出すための切り札
通常のチェーンは「内側のコマ」と「外側のコマ」が交互に連なっているため、長さを調整する際に「2コマ単位(約2.5cm単位)」でしか切断できません。そのため、「あと少しだけ後輪を前に(または後ろに)寄せたいのに、チェーンが長すぎる(短すぎる)」というジレンマに陥ることがあります。
一方、半コマチェーンはすべてのコマが同じ形をしているため、「1コマ単位(半分の長さ)」で緻密な長さ調整が可能です。後輪のタイヤとフレームの隙間をミリ単位でギリギリまで詰めたい時や、フリーギアに変更した際 にチェーンの長さが上手く合わない時の切り札として非常に重宝します。
通常のチェーンより重量があり、少し伸びやすいという弱点
デザインも武骨でカッコいい半コマチェーンですが、デメリットもあります。構造上、金属のプレートが複雑に曲げられているため、通常のチェーンに比べて「重量がかなり重い」こと、そして「金属が引っ張られた時に伸びやすい(寿命がやや短い)」ことです。
そのため、長距離を軽く速く走りたい方には通常のIZUMIなどの厚歯チェーンがおすすめですが、トリックを中心に練習したい方や、極限までタイヤをフレームに近づけるルックスを優先したい方には半コマチェーンが最高の選択肢となります。
ピストバイクのチェーン選びと規格まとめ
「チェーンを制する者はピストを制す」と言っても過言ではないほど、駆動系のセッティングは走りの質を左右します。
- ピストのチェーンには頑丈な「厚歯(1/8)」と、完成車に多い軽量な「薄歯(3/32)」の2種類がある
- チェーンを買う時は、必ず現在の歯車(チェーンリングとコグ)の厚み規格と完全に一致させること
- 走行距離3000kmを目安に、チェーンチェッカーで伸びを確認したら即座に新品に交換する
- 迷ったら、圧倒的な頑丈さとコスパを誇る日本の「IZUMI(イズミ)」のチェーンを選べば間違いない
チェーンが新しくなり、正しいテンションでピンと張られたピストバイクは、ペダルを踏み込んだ瞬間に「カチッ」と力が逃げずに加速していく最高の気持ちよさを味わわせてくれます。規格さえ間違えなければ交換は難しくないので、ぜひ自分でのチェーン交換に挑戦してみてください。
